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 プロフィール

 

海辺の家族 ― 魚屋三代記

文化講演会:2012年10月8日(月、祭日) 13:30開演
場所:「海の見えるホール」(東海道線大磯駅前 ステパノ学園内)       
演題:「海辺の家族 ― 魚屋三代記」 (みやび出版) 出版記念
講師:黒川鍾信(くろかわあつのぶ)氏(作家)
主催:明治大学大磯駿台会
後援:大磯町

2012年10月に「海辺の家族―魚屋三代記」がみやび出版から刊行されました。 それを記念して本の著者である黒川鍾信氏をお招きして講演をお願いしました。
大磯の海を舞台に、3代にわたって魚屋をやってきた家族の人間模様を中心に、専門の日米文化の比較まで、90分にわたり面白おかしく黒川氏が語った概略を掲載します。

また、後半は海にちなんだ歌 ―― 七里ヶ浜哀歌、城ヶ島の雨 ―― などを数曲、百合道子さん(ソプラノ)と添田千恵子さん(ピアノ)に演奏していただきました。
以下、当日の記録です。

講演に先立って挨拶

金子邦彦先生
(明治大学情報コミュニケーション学部教授、明大図書館長)

明治大学は男っぽい大学ということで知られています。タレントをみても、東野栄次郎、阿久悠、尾崎竜童、高倉健、柴田理恵さんなど個性的な人が多かったのですが、最近はガラッと変わっておりましてね、「ゲゲゲの女房」の主人公の向井理さん、井上真央さん、北川景子さんあるいは今在学している川島海荷さんなどいい男、いい女がどんどん入学してきています。

おかげさまで女性に人気のある大学に変わってきました。いま、大学はグローバルな人材を育てると同時に社会貢献、地域貢献にも力を入れております。飲み会に終わってしまう同窓会が多い中で、明治大学大磯駿台会だけはなぜこのように立派な講演会を催すのか。まさに地域貢献のフロントランナーといえましょう。今日は私の師匠でもあり、仲人でもある黒川先生のユーモアあふれるお話を聞けるのを楽しみにしています。

黒川鍾信氏登壇

明大のある東京・駿河台の隣に「文士の宿」といわれる山の上ホテル(英語名Hill Top)がありますが、私はいつも家に帰るときそのホテルの前を通ると、出版記念会の看板が20年くらい前までは毎日のように立っていました。

それを見ながら「ああ、いつか自分も出版記念会をどなたかにやってもらいたいな」と思っていましたが、本を書いていないのだからそんなことはあり得ないわけですよね。そして、一念発起して60歳近くなって「やっぱり、一冊くらいかいてみよう」とそれから作家稼業を始めました 。

最初に書いたのが「親と子の受験マラソン」。
アメリカと日本の学校を比較しながら書いたものですが、それを出版してくれたのが当時三省堂の編集長を務めていた伊藤雅昭さんです(会場の伊藤さんを紹介)。伊藤さんは10年ほど前に出版社(みやび出版)を興し、いまでは繊細ないい本をたくさん作っています。
  伊藤さんを紹介してくれたのが松尾さん(会場の松尾さんを紹介)。大磯には大変貢献された方。ジョンソンの役員をしていたが、若いころ三省堂にいて伊藤さんと仲が良かった。

ノンフィクションは体力、金がいるので地元を舞台に初めて小説を書くことにした。
それで思いついたのが結婚して大磯に住んで以来、お付き合いのある魚辰支店の阿部川さんをモデルに大磯の魚屋を話題にして初めての小説を書くことだった(会場の阿部川さんご夫妻を紹介)。
今の若い奥さんは食材をスーパーで買って、テレビをみて料理を覚えているが、当時は八百屋とか魚屋などで買い物をしながら立ち話で料理を覚えた。だから、お店の人とやりとりしながら料理を教えてもらう良さがあった。魚辰さんは魚をさげて、雨でぬかるんだ東小磯の道を配達してくれた。そんなことを思い出し初めての小説は魚屋をテーマにしようと思った。

この本の主人公の阿部川さんは最初から魚屋さんではなかった。
明治大学の工学部をでて一流企業に勤め、奥さまは銀座の松坂屋に勤められた。当時、デパートに勤める女性はデパートガールと呼ばれ、若者のあこがれの的だった。人の話によると50人くらいの募集に対し2000人もの応募があり、入ると厳しく仕込まれる。暗黙の了解で容姿端麗。息子の嫁にという母親が多かった時代、阿部川さんは奥さまに一目ぼれした。そして結婚。

父が病気になったために跡を継ぐ。サラリーマンからの転身は大変だったと思う。
酒屋なら重いだけで済むが、冬の寒い時は足の下から冷えてくる。そんなきつい仕事をやりぬく阿部川さんを私は見ていて、これをテーマにさせていただこうと思って本を書いた。
最近は、小売店の後継者がいない。息子は勤めにでて親の職業を継がなくなってきている。親の方もまた、息子が月給取りになることを望むようになった。当時60軒近くあった大磯の魚屋は、今10軒以下になっている。

いい面と悪い面と ――― 日米の学校教育比較

今日の演題とは違うが、大学で長年研究してきた日米文化比較のことを少し。
日本とアメリカでは、学校教育のシステムが全然違う。アメリカの高校生は受験勉強はしない。学生は教科書を学校へ置いてきて、家へ帰ってから勉強することはほとんどない。ところが大学へ入ってから絞られ、卒業はなかなかできない。一方、日本では大学に入ってからはまったく勉強せず、親も子が大学へ受かった瞬間からもう勉強が終わったと思っている。3年生になると就職活動で動き出す。

また、学校と役所との関係においてもアメリカは個人が上にいるが、日本の場合は役所が上にきて個人は底辺におかれている。たとえば教科書の検定。日本の場合は役人が全部コントロールしている。つまり、上から下へ来る。日本は全国どこへいっても使用教科書は変わらないから子供が転校しても影響はすくない。アメリカは地域ごとの教育委員会で教育内容は異なる。また、固定資産税の8割は教育費にまわる。だから、固定資産税の多いところは先生の給料が多いからいい先生を引っ張ってこれる。子供たちは地域のお金で育てる。いい面と悪い面がある。

アメリカの大学のトップテンはほとんど私立の大学である。日本の場合、月謝は高いというが、アメリカから比べたら決してそうではない。 学生から高い授業料をとると、国からの補助金が少なくなるから高くする必要はない。アメリカのように高い授業料の元を取ろうとしないから学生も必死で勉強しない。明大の校歌に「独立、自治」とあるが 、なんでも国にお伺いをたてて補助金などの援助をもらうから独立できない。 教育の分野だけでなく、すべての分野で 役所がにらみをきかす構図になっている。

個人主義が上にくる競争社会 ――― アメリカ

アメリカの大学は月謝に応じた教育をする。 コロンビア大学では年間5500ドルくらい。1ドル100円計算で年間550万円かかる。 学生はローンを組んで学費を工面するから、2000万円以上の負債を背負って卒業してゆく。
日本の学生は借りた奨学金を返さないのがたくさんいるが、アメリカでは学生がセキュリティーナンバーを背負っているから、返さなくても働いた給料から引かれるシステムになっている。だから、学生は必死で勉強する。しかし、3割は進級できない。

日本の学生は大学に入るまでは競争するが、いったん入ってしまうと競争しなくなる。 アメリカは高校でのんびり。競争に耐え得るようになってから競争させる。
ハーバードやコロンビア、コーネルなどの有名私立大学には公立高校からは入学できないようになっている。入試がないかわりに推薦状がものをいう。
その中にはいいことも悪いことも全部かいてあり、しっかりとシール(封印)されている。推薦する先生も社会的信用にかかわるから、真剣にならざるをえない。 生徒の成績、部活の活動等を半年ぐらいかけてよく見る。その辺が一発主義の日本の大学入試とは違う。これはひとえに学校のシステムだけではなく、社会全体のあり方に関わってくる。

アメリカではあらゆる面で個人主義が上。いばっているのは最初にイギリスからきた人たち、ワスプ ―― WASP(White Anglo‐Saxon Protestant)。アメリカ国籍をもっていればアメリカ人だが、後からきても、優秀で能力のある人は頭角を現し、競争社会を生き抜く。今度のロムニー(大統領候補)をみても高額所得者から税金を取ろうとはしない。他の人が一杯飲んで遊んでいるときでも頑張って仕事をして金持ちになったんだからそれは悪いことではない。そんな競争社会の考え方が根底にある。そのことを頭に入れておくと日本とアメリカの教育問題がよくわかる。

5分間の休憩後、第2部の海に関する歌を中心としたコンサートへ移る。
特別ゲスト出演:百合道子さん(ソプラノ)
          添田千恵子さん(ピアノ伴奏)

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                                    (文・佐藤邦康)

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